FREEHAND
第1章 『朱に染まりし始まり』
DROW:21 凶悪にして物騒なそれ
温かい日差しが心地よい昼下がり。
フォイドは大きな紙袋を携えて、人通りがまばらな通りを歩いていた。
「ちくしょー…なんで俺がこんなものを…」
愚痴を零しつつ、フォイドは持っている袋の中身を覗きこむ。
中には、怪しげな液体の入った薬瓶が4つと白い袋が入っていた。
「師匠も師匠だ…!なんでこんなもん、弟子に買わせにいかせるんだよ!」
そう言ってフォイドが睨んだのはいかにも怪しげな薬瓶ではなく、白い袋の方だった。
見た目こそただの袋だが、フォイドはそれがただの袋でないことを知っている。
袋は問題ではない。
その中身が問題なのだ。
それこそ、フォイドにとって―――否、ほとんどの人が顔をしかめるものだろう。
白い袋を何重にも重ね、保護されたそれは、それほどに凶悪で触れたくないものだった。
それを―――
<リーグ用に作る薬に必要だから買ってきてね☆>
フォイドに有無を言わせぬ笑顔で、頼んできたアリューン。
渡されたリストを見た時にはもう遅かった。
語尾に星が飛んでいそうなほど陽気な声と笑顔の前には、フォイドは折れるしかなかった。
この状態のアリューンに、断ろうと思ったところで無駄だ。
長年の経験が、フォイドにそう告げていた。
かくして、フォイドはいやいやこのような凶悪なものを買いにいかされる羽目になったのだ。
「アリューンも酷いわよねぇ…」
横について浮かんでいるゲイルヴァティアもため息を漏らした。
精霊である彼女には別にたいしたものではないが、それでも人にとってそれがどれだけ凶悪な
ものであることか。
彼女はそれを知っていたから、フォイドが哀れでならなかった。
「まぁ、さっさと帰ってアリューンに押し付けましょう。これだけ厳重に紙を重ねてあれば多少は
大丈夫よ。紙も特別性のだし」
そう言ってゲイルヴァティアはフォイドを慰めるが、フォイドはそういう問題じゃないと、また愚痴を
もらす。だが、ゲイルヴァティアが言うとおりだった。
こんな物騒なものはさっさとアリューンに押し付けよう―――
そう思い、フォイドが通りを曲がろうとした時だった。
「フォイド!」
「え…」
ゲイルヴァティアが声を張り上げる。
何事かと思い、紙袋から目の前に視線を移したときにはもう遅かった。
目の前にあったのは、走りこんでくる女の姿。
避ける間もなく、真正面からぶつかってしまった。
すさまじい衝撃が、フォイドを襲う。
「うわっ!」
そしてその衝撃が意味するのは。
「やばっ…!」
だが時既に遅し。
紙が破ける音が、すぐに聞こえた。
そして―――
すさまじい刺激臭が、フォイドを襲ったのだった。
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