FREEHAND

第1章 『朱に染まりし始まり』

DROW:20 闇夜の月





ティアラシエルの王都、ヘシュキア。

そこは、巨大な城下町が形成されている。

数百年前に立てられた城の周りに徐々に広がっていった街は、古いながらも大きさだけは、

第3大陸の国の中でもかなりの大きさを誇る。

しかし、昼間は様々な商店が立ち並び、賑わう大通りであっても、夜の人通りは少なかった。

そして、その暗闇の中、一人の女が駆けていた。

「しくじった…!」

女はそう呟き、舌打ちした。

ここ数年間、失敗などしたことはなかったというのに。

それなのに、失敗してしまった。


女は再び舌打ちすると、腰に差した剣を抜く。

夜の闇の中で、紫の燐光を纏った剣が出現した。

女はそれを構え、後ろに向き直った。

その目の前には、複数の影。


「我に応えろ、『夢想月紗』!!」


女はそう叫び、影に向かって剣を振るった。

そして、出現したのは、多数の風の刃。

一瞬にして、影―――黒い装束を着た男達は、風に切り裂かれ、絶命する。

ずしゃ、と音を立てながら男達は崩れた。

女は、追っ手が絶命したのを一瞬で確認すると、剣を鞘に戻し、また走り出した。

今度こそ、追っ手を撒くために。


既に身体の節々が悲鳴をあげ、頭のどこかでもう限界だと警鐘が鳴っている。

それでも走ることをやめることは出来なかった。


走るのをやめたら、待っているのは『死』のみだ。


それだけは、嫌だった。

この身体がどうなろうと。

手足の一本や二本、駄目になろうと。



走り続けなければ、自分という存在はそこで終わりなのだから。



女は走りながら腰に下げていた水筒を開けた。

口に近づけ、一気に飲み干す。

水筒が空になると、それを投げ捨てた。

久方ぶりの水を飲み、身体も少しだけ余裕が出来たのだろう。

女は、更に走る速度を上げた。








女は、ただ走り続ける。

自らの命を繋ぎ、そして、自らの使命を果たすために。



BACK  TOP  NEXT

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送