FREEHAND

第1章 『朱に染まりし始まり』

DROW:19 訪れた転機



リーグが薬を飲み干し、あまりの不味さに喘いでいるのを横目に、ティアは適当な台に腰を落ち着けた。

そして、袋の中をまた探る。

今度出てきたのは、ナイフとほんのりと桃色がかかった白い果物だった。

ティアは、ナイフを手に取ると、器用に果物を剥き始める。

そしてぽつりぽつりと、ことの顛末を語り始めた。

「まぁ、私もよくはわからないけど、どうもあんた『魔力暴走』引き起こしたような感じだったわ」

するするとナイフによって剥かれていく果物から甘い香りが漂い始める。

ティアは目線は手元に集中しながらも口を動かした。

「研究室自体にはそう被害はなかったんだけど、備品とか私の論文なんかは切り裂かれたりして

 ほぼ全滅よ。まぁ…書きかけのやつ以外は全部別にしてあったから大丈夫なんだけど」

最後の皮が剥け、白い柔らかな果実がその身を現す。

ティアはそれを何等分かに切り分けると、近くにあったリーグの部屋に設置してある食器棚から皿を

取り出し、それをのせた。そして、それをリーグに手渡す。

「はい。これ、アリューン様からの差し入れ。どうせその薬飲んで、あまりの不味さに悶えるだろう
 
 からこれ食べなさいって。甘いから大分口直しになると思うわ」

「あ、ありがとう…」

その不味さに悶えていたリーグは素直にそれを受け取った。

今の話を聞いて他にも言いたいことはあったのだが、口中に広がるなんともいえぬ味に、例をいう

のが精一杯だった。

とにかく、なんとか口直しをしたい。

そう思って、リーグは切り分けられた白い果実を、手づかみで口の中に放り込んだ。

その途端、口の中に果実特有の爽やかな甘さが広がる。

それは見事に、薬の苦味と渋みの2重奏を打ち消した。

「…おいしい」

リーグは素直にそう思った。

その率直な感想に、ティアは「それはよかった」と言って微笑んだ。

そしてまた袋をごそごそと探り始める。

「あ、ちなみにアリューン様からの伝言。2,3日はとりあえず休養しなさいって。それから、

 1日2回はさっきの薬を飲むこと」

そう言って、ティアがリーグの目の前に突き出したのは先程の薬と同じ瓶。

中にはやはりあのどろりとした液体が漂っている。

それを見て、リーグは持ち直してきた気分がまた下がる気がした。

そして、あるもう一つのことに気づく。

「…そういえば、ごめん。僕のせいで論文とかダメにしちゃって…」

実際に見たわけではないし、確認したわけでもない。

だが、それでも自分がやったことには変わりない。

そう思って口に出した謝罪。

だが、リーグの予想に反して、ティアは、にへっと笑った。

「ああ、もうそれはいいの、別に。それに他にすることも出来たし!」

そう言って、ティアはリーグの目の前にあるものを突き出す。

それは、一枚の書類だった。

「…何、特別許可証?」

ティアからそれを手渡されると、リーグは傍らにおいてあった眼鏡を掛けた。

そして、書類をじっ、と見つめる。

「…今期より翠蓮宮にて行われる『紅の地母』研究班への参加を認める…?」

『紅の地母』。

それは、ティアの求めるフロウ=アソート自身が残した遺作の一つ。

緻密に彫られた小さな石像で、魔力の宿った特殊な赤い鉱石が使われた魔導器だといわれて

いるものだ。美術品的価値も魔術的価値をも内包した、古代文明の偉大なる遺物の一つだ。

そして、それを研究するということはフロウ=アソートの秘術の謎への手がかりとなるわけで。

ティアにとっては、願ってもない話。

「…すごいじゃないか!」

リーグは驚きに、声を上げた。

元々、こういった遺物の研究は魔術協会の重鎮のみが関われることで、一介の魔術師には

中々許可が出たりはしない。

しかも、ティアはまだ16歳。

第1級魔術師の免許も持ち、その研究により段々と知名度は売れてきているものの、魔術協会

からすればまだ少し才能があるくらいの小娘としか見られない歳だ。

それなのに、許可が出た。

これは、本当にすごいことだった。

「これでまた目的に一歩近づけたのよ!だから嬉しくてたまらないの!」

ティアも頬を赤く染めて、興奮していた。

嬉しくて仕方ないのだろう。

「もちろん、リーグにも手伝ってもらうからね!身体が回復したら忙しくなるわよ?」

そう言って、ティアは満面の笑みでリーグに笑いかけたのだった。




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