FREEHAND

第1章 『朱に染まりし始まり』

DROW:13 封じられた赤の残滓




血に染まった身体。

体に纏わりつく熱を帯びたそれは、決して自身のものではなかった。

他者の、生きた証たる『赤』の情景。



全てが赤に。

全てが血に。



染まっていた。



そこに、ただ呆然とその様を見下ろす自分がいた。

赤に染まって動かなくなった、数人の骸を見下ろしている自分がいた。


断末魔の悲鳴を上げて、動かなくなってからまだ数分しか経っていないのに、ひどく長い

時間が流れたように思える。


赤い骸は、醜い顔をして死んでいた。

人に見せられる顔ではなかった。

限りなく醜く、醜悪な死に様。




その最後を当然だと、自分は薄ら笑った。




自分の家族を…母を、兄達を、妹を、弟を、殺そうとした当然の報いだ。

そう、当然なのだ。


自分から、彼らを奪おうとした。


だから、死んで当たり前なのだ。

惨たらしく死ぬのが当然なのだ。



自分から彼らを奪うことなど、決して許せることではない。


絶対に、許すことなどできない…!


自分が、そう独白していたときだった。



「…何、なんなの、これは…」



見知っている声が聞こえた。

とても、自分が大好きな人の声が聞こえた。

抱きしめてくれると、いつも温かくて、その温もりが大好きだった。

誰よりも、大切な人達の一人だった。



「…母様、気づいたの?もう、大丈夫だよ。あいつら、みんな死んでしまったから」



そういって、後ろを振り向いたとき。

その人は、「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。

そして、その表情に、いつもの優しい笑顔は欠片もなかった。



「…母様?」



おかしかった。

自分が知っているこの人が、今までにこんな表情を浮かべたことはなかった。

いつも笑ってくれて、抱きしめてくれた。

「大好きよ」と、何度も言ってくれた。


それなのに。


食い入るように見つめているその目に浮かぶのは、明らかな怯え。



「母様…?」



もう一度、呼んで。

手を、差し伸べようとした。

けれど、それは。



「いやあああああああああああっっっ!!」



あの人の、絶叫で遮られた。












「は、はは…」

笑うことしかできなかった。


あの時、自分は何をした?



記憶の底に封じていた、あの赤の残滓。

赤く、赤く、炎のように、血のように。

染まり行く、赤の情景。

染まり行く、自らの身体。


おぞましい。


なんて、おぞましい。


赤く染まった情景の中で、佇む血に染まった身体。


アレは、自分だ。



家族を守れて嬉しかった。

例え自らが血に濡れようと。

守れて嬉しかった。


けれど、その代償は。

家族を守るための代償は。


それは―――――






<駄目>






突如、風が逆巻いた。





<それ以上、思い出しては、駄目>




誰かの声が聞こえる。

澄んだ美しい声―――― でも、哀しげな、誰かの声が。



<もう、自分を追い詰めないで…!>



風が、そっとリーグの身体を包む。

そして顕現する、碧き――――


「……誰…?」


リーグの虚ろな瞳が、その姿を捉えた。

碧き風で顕現した、その大いなる女の姿を―――――


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