FREEHAND

第1章 『朱に染まりし始まり』

DROW:11 開かれた扉



ティアはアリューンの研究室の前に来ていた。

アリューンに先日の情報提供の礼をするためだ。

ティアは扉をノックし、中へと呼びかけた。

「入ってよいでしょうか」

「ああ、どうぞー」

ティアが声をかけると、すぐにその返事は返ってきた。

許可を得て、ティアが扉を開けると、そこにはアリューンがいた。

否、もう一人いた。

アリューンと同じ茶色の髪を持った女性が、そこで茶を啜っていたのだ。

「あ…、すみません。来客中ですか?」

「いえ、気にしなくて結構ですよ。どーぞ、どーぞ、お入りなさい」

アリューンは、いつもどおり微笑んでティアを招き入れた。

その笑顔に、ほっとしてティアは部屋へと入る。

そして、アリューンの手招きに応じて、近くの椅子に腰掛けた。

その時、アリューンの側にいた女性は、ちらりとティアを見る。

そして、何か納得したように、首を縦に振りながらアリューンへと向き直った。

「アリューン、彼女が例の秘術研究者かしら」

茶の入ったカップをテーブルに置き、女性がアリューンにそう尋ねると、アリューンは頷いた。

「なるほど…まぁ、及第点はいっているってカンジかしらね」

女は、そう言ってティアへ向き直ると、今度はティアをじっと見つめた。

あまりに強い視線だったため、ティアは一瞬どきっとした。

だが、女はティアを真摯に見つめ、口を開く。

「まずは、自己紹介しましょうか。私はヴァセリヤ=レイ=ウェルガム。翠蓮宮春官長であり、翠輝煌

ギオアール=ウェルガムの妻、そしてこの愚息アリューンの母です。よろしく、ティア=イードゥル第1

級魔術師」

そう言って彼女は笑った。










「さってと、これでよいかな?」

リーグは箒を部屋の片隅に置き、一息つく。

リーグの苦労もあってか、部屋は先程とはうって変わり、隅々まで清掃されていた。

部屋の砂埃は出来る限り掃かれ、ティアの論文が書かれた紙や重要な資料もきちんと整えられている。

「あ、この書類はティアが帰ってきてから、どこに置くか決めないと」

そういってリーグが手に取ったのは、少し黄ばんだ和綴じのノートだった。

ティアに聞いたところによると、各地の遺跡などを回った際、メモとしてずっと使っているものだそう

だ。人々から聞いた伝承、遺跡に残された読解不能な古代文字…いろいろなものが彼女なりの文

章と、図解によってまとめられている。

その内容は、アリューンやリーグから見ても、しっかりしていて惚れ惚れするものだった。だが、ティ

アいわく、まだまだだ、と公言して憚らない。



リーグはそのノートを開いてみた。

一度見たものだが、その内容は非常に興味深いものだった。

2度見て損はない。

幸い今はティアもいない。


ノートをもう一度見るくらいいいだろう――


そう思って、リーグはページを繰っていく。

乱雑でそれでいて女らしい丸みを持った文字で書かれた文章は、やはり古代のことやフロウ=アソ

ートのことについて丁寧にまとめられていた。

ここまでくわしく、突っ込んだ内容のものはそうないだろう…。

そう思って、リーグが次のページを繰ろうとした時だった。

「…あれ?このページ…前のページにくっついてるのか?」

ノートの真ん中付近に、ぴったりとくっついているページがあったのだ。

ティアは旅の最中、このノートをいつも持ち歩いていると言っていた。

夜露にでもぬれてしまったのだろうか。

黄ばんだ紙はしっかりとくっついており、ぱっと見ではページがくっついていることさえ分からない。


さすがにこのままではいけないだろうと思い、リーグはページを剥がそうとする。

幸いくっついているのは端だけのようで、中の方はくっついていない。

そっと剥がせば、紙を傷つけずにすむはずだ。

そう思って、リーグは慎重にページ同士を離していった。


ぱりっ、と小さな音がして、ページが完全に分離する。

「よし…っと。…中は大丈夫だね」

リーグは閉じていたページを開き、中を覗き込む。

この前見たときには、見ていなかったページだった。

複雑な図と、小さな文字がびっしりと書き込まれている。

「…ディグア遺跡について?…ああ、あの…」

そのページにはディグア遺跡と呼ばれる古代の遺跡についての調査のページだった。

ディグアとは約1300年前から大災厄が起きる1200年前まで栄えていた海辺の都市のことである。デ

ィグアには古代の魔術師の同盟などの本部があったなど、魔術史においても重要な遺跡である。

最近になってある魔術師の『工房跡』が発見された…という情報があった。

そしてこのページにはまさに、その『工房跡』のことについて書かれていた。

「そういえば、師匠もそのうち行きたいとか言ってたなぁ…」

そういいつつ、リーグは右のページに目を移す。

右ページには、その工房跡に残っていたある図が載っていた。

そして、その横には、ティアの字で『現段階ではこの図の意味は不明。調査続行』と走り書きされている。

そして、その下には…。

「…え?」

そこで、リーグは息を呑んだ。



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