FREEHAND

第1章 『朱に染まりし始まり』

DROW:10 分からない理由




元々特定の精霊と契約をしている魔術師は少ない。

精霊は時々気まぐれで、気に入った者を守護する契約を行う。

つまりは、契約は精霊の方から持ちかけられるものなのだ。


どんなに力の強い魔術師であろうと精霊が契約を持ちかけねば、契約することは叶わない。


しかし、精霊との契約は魔術師に莫大な力を与える。

その契約した精霊と同系統の属性の精霊には必ず好かれるので、精霊達はその魔術師に優先的

に力を貸してくれるし、違う系統の精霊であっても『契約』という免罪符を持っている限り、信用の置

ける奴と認識されるため、比較的好意的に力を貸してくれるのだ。

そのため、契約を行った魔術師は、人間社会においても、精霊達の中においても力を持つ存在となる。


だが、精霊達に気に入られる人間は多くない。

だからこそ、希少なその存在は重要視される。


そして、フォイドは幼い頃に精霊との契約を果たした…希少な魔術師なのである。









「で、今回はどこまでいっておいでで、お嬢さん?」

フォイドは目の前の存在に向け、呆れた顔でたずねる。

すると、ゲイルヴァティアは目を泳がせてとぼけた振りをした。

その様子をフォイドは訝しげに見つめた。

どうせ、また何かやらかしたのだろうと、予想をつけたのだ。

「…それで、今回は何してたんだよ?えぇ?」

「…えぇとね、ユーグ・ナンまで行って来たのだけどね、ちょっといい子がいたものだから、少しの間

お邪魔してきたのよー…」

あはは、と笑いながら誤魔化すゲイルヴァティアにフォイドは大きなため息を漏らす。

そして、大きく息を吸い込んで、その心に溜まっていたものを吐き出した。

「少しの間って、3ヶ月もかよ!?その間俺がどんな思いしたかわかってるのか、お前は!合同演習

のときに魔物に食われそうになってお前呼ぼうとしたら一方的に拒否されるわ、お偉い方に高位精

霊召喚を見せろといわれた時もお前が来なかったせいで2級魔術検定落とされるわ!散々だった

んだぞ!!」

フォイドの顔には明らかに青筋が浮かんでいた。

実際、ゲイルヴァティアがいなかったがために、フォイドが被った被害は多大であった。

フォイドが述べた2つのことの他にも、いろいろあったのだ。

試験の時に他生徒が呼んだ風精霊が暴走した際に、風精霊と契約したフォイドが止めようとしたの

だが、そのために必要な説得役のゲイルヴァティアがいない。

結果、修練場が破壊されるわ。

しまいには、契約精霊に逃げられた魔術師と馬鹿にされるわ。

そして、何よりも!

「大体な!お前、リーグの検定の日程忘れてただろ!?また、あいつ落ちたんだぞ!」

フォイドがそう怒鳴ると、ゲイルヴァティアは、「何のことだ?」とばかりに、考え込んだが…数秒後、

その何かに気付き、顔が真っ青になった。

「え。…嘘!?1週間後じゃなかったの!?」

心底ゲイルヴァティアは驚いたらしい。

おたおたとし始めたゲイルヴァティアにフォイドはがくりとうなだれた。

「…一週間前だったぞ?お前また日数ずれてたんだな…」

「そ、そうみたいね。…あははは」

笑いで誤魔化そうとするゲイルヴァティアにフォイドは再びため息をついた。

「…ったく、今回運よく『風』系統の術が当たってたのに…お前がいたら、お前が力を貸してやれてた

かもしれねぇのに…」

その言葉に、ゲイルヴァティアはしゅんとうなだれた。


今回、リーグに与えられ課題は『風系統の初歩呪文』だった。

その気になれば、ゲイルヴァティア自身がリーグの呼びかけに応じ、助けてやれるはずだったのだ。

それに、元々フォイドとゲイルヴァティアはいつまで経っても初歩魔術が完成しないリーグに対し、助

力をするつもりだった。精霊と契約した魔術師が精霊へ懇願を行うことで、術の精度が上がることは

言うまでもないことなのだから。


それに、これはアリューンからも頼まれていたことだったのだ。


自信を喪失し、自暴自棄になっているリーグをなんとか立ち直らせたい。

それは、フォイド、アリューン、そしてゲイルヴァティア3人の願いでもあったのだから。

「ごめんなさい…。でも、私達が助力したとしても、リーグの魔術は成功しなかったかもしれないわ」

うなだれたゲイルヴァティアがぼそっ、と呟く。

その言葉に、フォイドは疑問を向けた。

「どういうことだよ、それ?」

高位精霊であるゲイルヴァティアが力を貸してなお、リーグの魔術は完成できないかもしれない?

それは、ありえないことだった。

それが、フォイド…否、魔術師共通の考えだった。

だが、ゲイルヴァティアはいいにくそうにしながらも、その考えを否定した。

「リーグには、私たち精霊でも図れない『何か』があるのかもしれないわ。でなければ、あれだけ強い

力を持った人間が、魔術を完成できないわけがないのよ。何より、彼は貴方と同じように私達精霊に

対し、敬意と感謝を持って優しく接してくれている。そんな人間を精霊が嫌うはずがないのよ。それな

のに…」


リーグの魔術は何故か、完成されない。


いつも、霧散し、発動することがない。


それは何故か?


フォイドはいつも考える。

リーグが何故、魔術を使えないのか。

けれど、その理由が精霊にもわからない。



(なら分かるのは神のみ…だっていうのか?)



理由が分からない。

誰にも分からない。



求める答えが分からない…。



どうしてリーグは、魔術が使えないんだろう…?




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