FREEHAND
第1章 『朱に染まりし始まり』
DROW:7 零れ落ちゆくもの
大量の本が保管される翠蓮宮の大図書館。
その本の数数千、いや、数万にも及ぶといわれる大図書館である。
その大きさは魔術師協会の本部があるアヅィーア王国白夢宮の大図書館に匹敵するといわれてい
る。
内部は入り組んでいて、2階と3階の部分が吹き抜けになっており、高い本棚が幾重にも隣接してい
るのがここの特徴だ。
「リーグ、この紙に書いてある本全部持ってきて頂戴ね〜」
そうティアに言われてリーグは数百冊にものぼる本を探している。
確かに、へたな生徒に助手を頼んだら本を探すだけで日が暮れる仕事だ。
この仕事は図書館に慣れているリーグにぐらいにしかできまい。
(しっかし、フロウ=アソートねぇ…)
大魔術師フロウ=アソート。
いうなれば謎の魔術師だ。独自の魔術を編み出し、そしてただ一人それを扱えた者。
伝説にも近い人物だ。
彼の全盛期は約2200年前。しかも彼の素性がよく明かではないために、いろいろな逸話がある。
その中には、フロウ=アソートは異界人だったとか、魔族の王の副官だったとか…バカらしい話も多
数ある。
しかし、彼が存在した証…数多くの遺産が各地でよく見つかる。
その遺産とは絵画や彫像など美術的にも優れたものである。
また、これらのものからは高い魔術的要素や力が検出されていた。
フロウ=アソートの遺産とは気付かずにそれらのものを使ってしまって力を暴走させ、国一つを跡形
もなく吹き飛ばした…という逸話さえ残っているのだ。
しかしながらこれらは全てコレクターや魔術師、ひいては法術師に至ってまで莫大な金を要しても手
に入れたがる一品である。
先日も魔術師協会本部である白夢宮から発表された。
それは今までの作品の中でも最高の作品―――銘を『愛する者達へ』
フロウ=アソート一家であると思われる人々が描かれている、愛に溢れた作品だという。
これを、誰もが欲しがった。
だが、白夢宮がそんな大変なものを手放すわけがない。
今は作品の公開さえされていないのである。
(…『家族』か。僕は本当の親を、知らない。僕に、本当の家族と呼べる人達なんて…いない)
過去の傷跡。
時々思う。
何故、自分はあの時、血塗れで倒れてなどいたのだろう?
もしかしたら。もしかしたら、だ。
自分の親は、魔術師で。
それで生まれた自分に素質はあっても使う技術がない事に気づいていたとしたら…。
自分は、いらない存在だった。
死んでもいい存在だった
(僕は、本当にここにいて良かったんだろうか?)
偶然、今の父に拾われて育った自分。
『偶然』『奇跡』『死にぞこない』
どの言葉が、あてはまるのだろう。
そう思ったとき、自然に苦笑した。
こんな事を考えている自分が虚しくて。
悲しすぎて。
(…帰ろう)
資料はある程度揃った。これだけあれば、ティアも文句をいうまい。
リーグは、図書館を去った。
どれだけの文献を洗っても、手がかりは、ない。
やっとまとめた研究成果や仮説がぼろぼろと足元から崩れていった。
翠蓮宮のどんな資料も、自分の研究を否定する。
「やっぱり…」
いつも出る結論はたった一つ。
フロウ=アソートとは、謎の存在である、というだけ。
そして彼の秘術についてはなんの手がかりも得れず、また振り出しに戻る。
(はやく…はやく、見つけなくちゃいけないのに!)
そう、見つけなくてはならないのだ。
でなければ、私はアレを消せない―――!!
ティアは持っていたペンを強く握る。
そのペンに、うっすらとひびがはいった。
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