FREEHAND

第1章 『朱に染まりし始まり』

DROW:6 一歩踏み出すこと


翠蓮宮の修練場の廊下の一角ではいつもの様に女子がお喋りをしている。

いつもの、情景。

だが。

今日は何故か違った。

「でさ〜…」

「…ねぇ、ちょっと」

一人の女子が一方向を指差す。

何か珍獣を見たかのような目で。

「ん?何?」

「あれ……誰?」

その女子が指差した方向にいたのは、見たことの無い、青年だった。

女顔で蒼い髪と萌黄色の瞳をもった青年。

かけられた眼鏡はその顔立ちを少し大人びているように見えさせた。

長い髪は頭の上で無造作にくくられているがそれがまた良い。

萌黄色と深緑のローブは彼を更に引き立て、数個の護符は彼の存在を一層際立たせる。

はっきりいって…中々お目に掛かれない、いい男。

「…ねぇ、あの人どっかで見たことない?」

「え〜?あんな男見たことなんて…。………………!?!?」

一人が、あることに気がついた。

それに気づいた瞬間、その女子は声を失う。

「何?誰か分かったの?」

もう一人はいまだに誰か分からないらしく、首を傾げている。

そんな彼女に、声を失った方が擦れた声で告げる。

「あ、あれ…リーグ…!!」

「………え゛」

それに、彼女も声を失う。

彼女の記憶にあるのは、あのぼさぼさ頭のリーグだ。

それと、あの美男子はどうしても結びつかない。

だが、あの珍しい蒼い髪。

透き通ったあの碧眼は。


まぎれもなく、リーグ。


で、当の本人のリーグはというと、である。

(あぁ!女の子が僕に変な視線を向けている…。そ、そんなに変かな…?)

…始終びくびくしていた。

(は、はやく修練場に行こう!なんか怖いよおおおお!!)

逃げるようにして、早足でその場を立ち去るリーグ。

その場に残されたのは、呆然とした彼女達だけだった…。








「どぅわはっはっはっはっはっは!!!」

修練場でフォイドは腹を抱えて笑っている。

それもそのはず。

先ほどから翠蓮宮内ではある噂が充満していたからだ。

それはやはり、リーグに関することだった。

その噂曰く、リーグが狂ったとかなんとかとにかく言われたい放題なのである。

「すげーな、あの子。俺、リーグのちゃんとした姿久しぶりに見たぜ…ぷぷっ」

「…僕だって好きでこんな格好してるわけじゃ…」

リーグの顔は青い。

朝からずっと変な視線に付きまとわれているせいもあるが、昨日の悪夢を考えるとなおさらだった。

あれからずっと、ティアにつきあわされたのだ。

ローブもタリスマンも眼鏡もすべて、ティアの選んだものだ。

リーグの意見は一切なし。

まさしくティアのごーいんぐまいうぇい。

「でもさ〜、ギャップは凄いにしても俺的にはそっちの方がいいと思うぜ」

ようやく、フォイドが笑いをこらえてきた。

顔にはしっかり笑い皺が残っているのだが。

「なんで?」

リーグがさも不思議そうに言う。

「なんで…ってさ。お前、それだけ綺麗な顔してるのにさ、もったいないじゃないか。それに、ティアの

趣味も悪くはないし。かえってそっちの方がバカにされないと思うぜ」

リーグとフォイドの考え方は対極的だ。

リーグは何事も悪い方に考えるが、フォイドはかなり楽天的で前向きである。

この場合、リーグは目立たない格好をする事によって他人から自分の存在を消そうとしていたのだ。

しかし、フォイドの場合、まったくの逆である。

要するに、自分のいいところを相手に見せつける。

これが彼のやり方である。

ちなみにここで暴露しておこう。

リーグは現在17(もうすぐ18)歳、フォイドは19歳である。

コレは何を意味するのか…お分かりであろうか?

…フォイドは一回留年しているのだ。

理由は勉強をしなかったから、ただそれだけ。

その際、彼は多いにバカにされたが、ひとつだけ他人に誇れる才能があった。

『精霊との感応能力が高いこと』である。

いいかえれば、術の制御だけは誰にも負けなかったということだ。

彼の場合、筆記が努力しなかったのでどうしようもなく悪かったが、実技だけはパーフェクトだった。

それをバカにした相手に示す事によって彼はそれを回避した。

また、彼はその1年後、リーグに出会ってから彼の影響からか少しはまじめに勉強するようになり、

成績も年々よくなったのである。

今では彼の陰口を言うものはいない。

それどころか、もともとの人あたりのいい性格からか下級生の生徒にはなかなか人気がある。

リーグもそうやって自分のよいところをどんどん伸ばしていけば今、まだマシだったのだろうが…。

「とにかくさ、お前…コレをいいチャンスだと思えよ。お前にはなにかきっかけが必要だったんだか

ら。
コレを気に少し変わろうと努力しろよ」

確かに、リーグもコレをいいきっかけに変えたかった。

悪い方向に考えるのだけでなく、よい方向に…。

そう、考えたい。

しかし、まだ…まだ後一歩が踏み出せない。

今はまだ、そんな状態なのだ。

ガラッ。

「あっ!リーグ、いたいた!」

扉が突然開いた。

入ってきたのはティアだ。

「何?どうかしたの?」

怪訝そうにティアを見ながらリーグが問う。

昨日のことを考えると、どうもリーグは嫌な予感がしてならない。

「ん〜、そろそろね、私の仕事にはいろうと思ってさ。それで前々から言っといたとおり、助手として

伝って欲しいのよ」

この前、リーグはティアにこのことを聞いていた。

ティアがココへきたのはあることを調べる為なのだ、と。

そのため、アリューンはリーグをティアにつけた。

リーグは、全生徒の中でただ一人翠蓮宮の図書館の全ての本を読破した存在だったからだ。

「で?何を調べるの?」

リーグの仕事は主に雑用と、生き字引。

まさに、うってつけの人材だったわけだ。

「それなんだけどね」

ティアが不適に笑う。

ここでまたリーグは何か嫌な予感がした。

とてつもなく、嫌な予感が。

「私が調べるのはフロウ=アソートの秘術について、なのよ」

フロウ=アソート。

古の大魔術師として名高き、謎の人物。

その彼が遺産と共に此の世に残したもの…。

それが、誰もその名を知ることのない、謎の秘術だった。


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