FREEHAND

第1章 『朱に染まりし始まり』

DROW:4 漆黒の鳥は舞い降りて


「え〜、ここは間違えやすい所だ。ちゃんと、まとめておけよ。また、ここは重要だから…」

教師の声が教室に木霊していく。

教室の中にいる生徒は約200名。

この翠蓮宮での生徒数は約400人近くなのでここに半数がいることになる。

まあ、今日は翠蓮宮の生徒の合同授業のためなのであたりまえのことなのだが。

今日の科目は風系呪文の総復習を兼ねている。

風を起こす呪文から最大級の呪文など全ての構成と発動の仕方など1日かけて全て講義していく。

こういう丸1日かけて授業をする場合、リーグのようなマジメな生徒―が、リーグはマジメ過ぎる…―

はノート1冊にびっしりと構成から何まで記している。

おかげで立場の弱いリーグのノートは授業をマジメに受けていなかった生徒などに回し読みされる

めになるのである。

「さて、今日はここまでだ。今日中に苦手な所は復習するなり、師範に聞くなりして解決しておけよ。

来週には風系統の呪文のテストとレポートを提出してもらう。だが、くれぐれも自分の力でまとめる様

に。決して他の人のを写したりとかはするなよ?」

教師はぎろりと教室を見まわした。

その視線に、数人の生徒がぎくりと身を強張らせた。

その中にはフォイドもいたりする。

目を泳がせているフォイドを見て、リーグは呆れた顔で、溜息をついたのだった。







「くっそ〜…。よりによって『風』の構成の全部を丸暗記しろだぁ〜?」

「…フォイドはもう、3級魔術師じゃないか。はやく1級魔術師になるためには仕方がないだろ?」

フォイドとリーグは講義が終わった後に、翠蓮宮の食堂でレポートの作成をしながらお茶を飲んでい

た。

ただし、フォイドは講義の内容のほとんどがわからずに、リーグの教えを請うているワケだが。

「大体、なんで俺だけなんだよ。いくら3級魔術師とはいえ…」

「…って、いうかフォイド。その構成だったらこの前師匠に丸暗記しとけって、いわれてなかった?僕

は覚えた記憶があるんだけど?」

「俺、暗記って大っ嫌いだから!」

フォイドは意味もなく開き直った。

それを見て、リーグは一気に脱力する。

「あのなぁ…。…はぁ、一応言うけど、この構成は…」

リーグがフォイドにとって意味不明な序列の魔術言語を声で構成する。

…覚えるだけでもこれは相当な時間を要するのにリーグはこれを1、2回読んだだけで覚えるから恐

ろしい。

しかし、これで魔術構成となったらすぐ失敗するのだから分からない。

魔術もそこそこであったら、間違いなくリーグは1級魔術師の資格を取っていただろうに。

1級魔術師になるには大して難しい条件はないのだ。

実技、勉学のどちらかで1級をとっていればそれで1級魔術師となる。

1級魔術師になれば、なかなかよい待遇を受けられる。

だが、リーグにとってはそのようなことは夢のまた夢だ。

「じゃ、後は自分でまとめてよ」

「え?」

リーグの言葉にフォイドは嫌な顔をする。

「え?って…自分でまとめなきゃ、意味ないだろ?」

「そりゃそうだが…」

「じゃあね」

「え、おい!」

叫ぶフォイドをほうっておいて、足早に食堂を去る。

まとめは大体、いつでもできる。

それより先に、早く仕上げたいものがあるのだ。

宿舎の、自分の部屋にある、妹の絵を。

完成、させたい。






宿舎にいくと、部屋の前に誰かが待っていた。

それは黒い服を着た、漆黒の瞳と髪を持つ少女だ。

まるで、漆黒の鳥みたいだった。

「…誰?」

いつのまにか、少女がこちらを向いていた。

「え…あ。その部屋の者ですけど…」

それを聞くと、少女はにやりと笑った。

「じゃ、あなたが10級魔術師のリーグ=グターさん?」

「え、はい」

少女が興味深そうにこちらをみる。

その眼差しは知識に溢れているような…単に興味が湧いているだけなのか分からないけど。

「…私はティア=イードゥルっていうの。これからよろしくね」

少女が、またにやっと笑う。

その笑いは、何をさすものなのかは知らないけれど。

結局、彼女との出会いでリーグの運命は変わって…いや、変わったのではなかった。

ただ、本来の方向に、流れ出したのだ。

リーグの…本当にやらなければ、ならないこと。

それが…ただ、流れ出したのが、今だったのだ。



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