FREEHAND

第1章 『朱に染まりし始まり』

DROW:2 自分の扱い方


修行場でリーグは溜息をつく。

これで初級の10級試験に落ちたのは何回目か。

少なくとも…いや、よそう。恐ろしい数になること間違いナシだから。

そう思って立ちあがる。

最初に試験を受けたのは既に4年前だ。

初めての時は、まだ数人落ちる生徒もいた。

その数人で、がんばろう!と意気投合したことなどもはやすでに懐かしい過去である。

彼らは既にリーグの上を行き、優秀な魔術師として名を各地に馳せている。

国家公務員として、宮廷魔術師として王宮に勤めている者も数多くいる。

翠蓮宮に残っている者達でさえ、腕を着々と磨いていっている。

なのに、自分はどうなのか。

リーグは再び溜息をつく。

そんな時、修行場の扉が開いた。

「よぉ、リーグ。まーた、10級、落ちたんだって?」

「…フォイド」

入ってきたのは、同期の親友である第3級魔術師フォイド=フォント。

若草色の髪と瞳を持つ青年だ。

フォイドはリーグと同じ師匠に弟子入りした同期の仲間である。

実力は、普通の魔術師より少し上くらい、と言うべきだろう。

いまだ弟子の身ではあるが、実力は高い。

そして、実際リーグの親友といえるのはこのフォイドだけだ。

「まったく、お前、また失敗したワケか?」

「またいつもの如く、だよ」

一瞬後。

両者の口から盛大に溜息が漏れた。

「あ〜あ、お前なんだってそんなに実技どへたなんだかなぁ…頭はいいくせに」

フォイドがリーグの頭をべちべちと叩く。

そう、頭脳だけならリーグはそこらの学者に匹敵する。

実際、普通科高等学校が、魔術師になることを惜しんだくらい頭だけはよかったのだから。

なら、何故リーグはさっさと魔術師になることを諦めて学者に転向しなかったのか。

答えは簡単。

リーグは、『高魔力保持者』として認定され、『危険』のレッテルを貼られていたからである。

6年前、リーグは自分の魔力を暴走させたことがある。

その際、リーグは少なくとも7人はその魔力暴走によって殺しているのだ。

ただし、殺したのが自分の家族を襲った暗殺者であると言う事から正当防衛となり、まったく罪には

問われなかったものの、リーグは『高魔力保持者』として強制的に翠蓮宮に入門させられた。

そして、『高魔力保持者』はその危険性故に最低2級までを取得し、完全に自分の魔力を制御できな

くては、魔術師協会から抜ける事ができない。

そして、リーグはいまだ10級。

いうなればリーグの場合、高い魔力をその身に宿していながらまったく制御できていないことに原因

がある。

そして制御できないと言うことは、まだ自分の魔力を扱いきれていない証拠であり、そんな危険分子

を外に放り出すほど翠蓮宮も馬鹿ではない。

かくして、リーグはこの翠蓮宮に縛りつけられているのである。

「ま、落ちたならしょうがないだろ。いつまでも悩んでないで次の試験に向けて鍛錬した方がいいぞ」

「それはわかってるんだけどさぁ…」

こうも何回も落ちるとやる気がなくなる…。

リーグの気持ちはまたいつもの如く、落ちこんで行く。

何回受けても落ちる試験。

今までに数えるほどにしか発動しなかった魔術。

馬鹿にした人々の嘲笑。

教授達の深い溜息。

一体後何度、こんな屈辱を経験しなくてはならないのか。


リーグの心は、過去何回も思ったことをまた思い始めていた。








そのころ。


「あなたの噂はよく聞いておりますよ、なんでもおもしろい研究をなさっているとか」

翠蓮宮の入宮者の管理を任されている老魔術師が、目の前の人物を前に微笑む。

「ええ、おもしろいといえばおもしろい研究です。とても大変ですけど、すごくやりがいがありますか

ら」


その老魔術師の前にいるのは、一人の少女だった。

どこにでもいるようなごく普通の少女だ―――ただ一点を除いて。


全身、漆黒なのだ。


漆黒の髪と瞳、そして飾り気のない黒い服と、シンプルな黒のブーツ。

その中で髪に差した真珠が付いた白の羽飾りとだけが異様に浮いている。

一言で言うなら、喪服のような格好。

老魔術師もそれに気づいたのか、少し変な少女だな、と思っていた。

しかし、あまり気にせずに手元の書類に目を落とす。

その時、少女が一つの事を思い出した。

「そういえば、助手を申請した件はどうなったんでしょう?無理というなら仕方がないのですけど…」

老魔術師は、少女の言葉に、ちょっと待ってと言って、書類をめくる。

数枚めくった所に、助手申請の件と、その助手の名前と所在が書かれていたのに気づいて老魔術

師はそれを読んだ。


で。

少し顔を顰めた。

其処に書かれていたのは、あまりにも有名な人物だったからだ。

「…助手の件は可能、となっています。ただ…」

「ただ?」

少女は首を傾げる。

老魔術師は、いうのが少し憚れるのか、無言で書類を少女へと手渡した。

少女は、不思議に思いながらもその書類を、読む…。

そして。

案の定、顔を顰めた。

「一応、研究などの成績は優秀な者なので上も彼を当てたのだと思いますが…。…嫌でしたら申請

し直しますよ?」


老魔術師は内心あせる。

実際、彼女は中々高名な魔術師の一人なのである。

機嫌を損ねたらどうなる事か…。

が、それには及ばなかった。

「いえ、大丈夫です。この方で構いませんとお伝えください。私如きで手を患わせるのは失礼な事で

すから」


少女はにっこりと笑った。

その微笑は裏表の無いやさしいものだったので、老魔術師は、安心した。

老魔術師は、少女から書類を返してもらうとそれに判子を押した。

「では…第1級魔術師ティア=イードゥル。あなたの翠蓮宮入宮を許可いたします」

それを聞いて、少女―ティアはにっこりとまた笑い返した。

BACK  TOP  NEXT

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送