FREEHAND
第1章 『朱に染まりし始まり』
DROW:1 落ちこぼれ魔術師
六芒星が中央に描かれた部屋。
いい香りとも、いやな香りとも言えない香の匂いが漂う。
そこには30人ほどの魔術師がその儀式を見守っていた。
部屋の中央に描かれた六芒星の中心には腰まである長い蒼い髪と翠玉の瞳を持つ青年がいる。
しかし、髪は手入れしておらず、ぼさぼさ。
きっとその長い髪も、単に切るのが面倒だから伸ばしているだけだ。
しかもかなり分厚い眼鏡をしている。はっきりいって、かなり見目の悪い男である。
青年は紡いでいく。
基本的な精霊降臨の構成を編み、さらにそれの上に術の使用目的を構成していく。
全ての構成ができあがった。基本通りに、本に載っているのと寸分も違わない構成。
これならいける。
そこにいた誰もがそう思った。
「我請願す 我と我が愛せし者を守らんがために 蒼き其の力持ちし……」
順調に精霊を呼ぶ呪が構成に加算されていった。
その呪によって、精霊―下級精霊だが―が彼の呪の元へと集っていく。
ちなみに精霊は術者の強制力に応じてその階級を変える。
つまり青年はまだ未熟な見習い魔術師なのである。
それゆえに強制力が小さい。
しかし、ここで疑問が残る。
何故彼はこの歳でそんな力しか持っていないのか?
普通、魔術師は幼いころから訓練を受けているはずなのに、何故?
最初に彼を見たら、誰もが考えるこの疑問。
答えは一つ。何故なら――
「其の力は風 大気の泉より出ずる防護の壁<レヴィス・カ−タ>!!」
ぱんっ!
ふしゅうぅ……。
構成が一瞬にして霧散する。
それによってせっかく呼び集めた精霊は去ってしまい、術は不発に終わってしまった。
この事態に、周りの魔術師達は唖然とした。
ありえない、とでもいいたげな者。
あまりの自体に目を剥く者。
またか、と嘆く者。
そんな中、当の本人である青年は、頭をぽりぽり、とかいて一言。
「失敗しました」
そんななんでもないようないい方をした青年に、周りの魔術師達は…。
「「「「「「失敗したで済むかあああああああああ!!!」」」」」」
一同、見事にハモる。
まあ、それも仕方がないことだ。
五年も前からこの魔術師協会ティアラシエル国本部『翠蓮宮』のかなりの実力者である者を師範に
持ちながら、未だになんの成果も見せない、この青年。
その二つ名は、穀潰しやら能無しと呼ばれるうえに、さらに翠蓮宮の恥とまで言われた。
彼こそ、翠蓮宮の落ちこぼれ魔術師、リーグ=グターだった。
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